クリーンアンモニア合成:クリーンなエネルギーキャリア

クリーンアンモニアには、化石燃料由来で排出されるCO2を回収貯留したブルーアンモニア、再生可能エネルギー由来のグリーンアンモニアなどがあり、日揮グループではグリーンアンモニア製造技術を開発しています。火力発電所やボイラー・工業炉の燃料としてこのアンモニアを使用することでCO2排出量削減への貢献を目指しています。アンモニアは常圧でマイナス33℃という比較的マイルドな温度で液化するため、他の水素エネルギーキャリアよりも長期間の貯蔵や輸送が容易で、水素エネルギーキャリアとして注目されています。

  1. エネルギーキャリア
    気体のままでは貯蔵や長距離の輸送の効率が低い水素を、液体にしたり水素化合物にして効率的に貯蔵・運搬する方法。

特徴

  • 再生可能エネルギー由来の低圧の原料水素に適したアンモニア合成技術
  • 現行のFe系の触媒よりも低温・低圧で高活性なアンモニア合成触媒
  • 再生可能エネルギーの変動にも対応した最適な運転を可能にするシステム
  • CO2フリーな燃料 (CO2を排出しない燃料)
  • アンモニアは輸送・貯蔵も容易

適用先

  • 再生可能エネルギーが豊富で安価な地域
  • 再生可能エネルギーが余剰な地域

開発状況

  • 産総研福島再生可能エネルギーセンター(FREA)にてアンモニア合成実証試験完了
アンモニア合成実証試験装置
FREA アンモニア合成実証試験装置
  • NEDO グリーンイノベーション基金事業にて、旭化成とグリーンケミカル実証事業を開始

背景

現在、地球環境の保全および持続可能な社会の構築を目指し、エネルギーの多様化と低炭素社会の実現が世界的な課題となっています。これを解決するための手段として、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素エネルギーに対する期待が高まっています。

水素エネルギーを本格的に活用していくためには、安全性やコストをはじめ、輸送・貯蔵の効率性などの課題があります。これを解決するために、水素をアンモニアや液化水素、有機ハイドライドなどのエネルギーキャリアに転換する方法が検討されています。なかでも成分中に水素を多く含むアンモニアは、液化が容易であること、アンモニアのまま直接燃焼させることが可能であること、燃焼時にCO2を排出しないこと、といった特徴を持ちます。さらに、肥料や化学原料などにも広く利用されていることから、既にサプライチェーンが確立されているため、水素のエネルギーキャリアとして優位性があります。

エネルギーキャリアとしてのアンモニア技術開発と市場導入の動き

2017年12月に発表された「水素基本戦略」では、2020年頃の既設石炭発電所でのアンモニア燃料の混焼導入、2020年代半ばの既設発電所でのアンモニアの商業利用を目指すとされています。

内閣府は2014年度からSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)において、2030年までに日本が革新的で低炭素な水素エネルギー社会を実現し、水素関連産業で世界市場をリードすることを目指した「エネルギーキャリア」の研究を行っており、当社グループも『CO2フリー水素利用アンモニア合成』の開発で参画しました。

また、当社グループは、アンモニアキャリアの推進を図る目的で設立された一般社団法人クリーン燃料アンモニア協会にも参画し、特にクリーンアンモニアのサプライ側での貢献を目指しています。

  1. SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)
    Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Programの略。総合科学技術・イノベーション会議が自らの司令塔機能を発揮し、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーションを実現するために新たに創設されたプログラム。
    さらに、2020年10月に「燃料アンモニア導入官民協議会」が設立され、当社も構成員として参加しています。2021年2月に公開された「燃料アンモニア導入官民協議会中間とりまとめ」では、2030年に年間300万トン、2050年には国内で年間3000万トンという燃料アンモニアの導入ロードマップも示された。

グリーンアンモニアの高効率合成と安定生産を目指して

発電燃料に使用するアンモニアは、製造過程でのCO2排出量を可能な限り低く抑えた「クリーンアンモニア」である必要があります。このための理想的な方法は、再生可能エネルギーからの電力を用いて水電解で水素を製造し、この水素と空気中の窒素を原料にアンモニアを製造するプロセスです。

しかし、現状のアンモニアの合成法は、鉄系の触媒を使って高温・高圧の触媒反応でアンモニアに転換する「ハーバー・ボッシュ法」によって行われています。この方法を用いて水電解で得られる水素を原料にアンモニアを作る場合、原料の水素の圧力が低いため、加圧に大きなエネルギーが必要となることから、エネルギー効率が低下します。この効率改善を目的として、既存の「ハーバー・ボッシュ法」よりも低温・低圧の条件でも高活性な新規アンモニア合成触媒とプロセスの開発が必要です。
また、原料の再生可能エネルギーの中でも、太陽光発電や風力発電は、短・中・長時間の単位で大きく変動します。その電力を基に水の電気分解で水素を製造しますが、製造される水素も同じように大きく変動します。これに対して、下流のアンモニア合成プラントでは、そのような大きな変動に対応できません。そこで、そのような問題に対応できる設備設計と運転システムが必要となります。

開発技術の概要

当社グループは、SIP「エネルギーキャリア」研究の中で、2014年から『新規アンモニア合成触媒および再生可能エネルギーによる水の電気分解で得られた水素を原料としたアンモニア合成プロセス』の研究開発を進めてまいりました。

産業技術総合研究所、沼津工業高等専門学校、日揮触媒化成と共同で、触媒に使用する担体や触媒の製造方法を改良することにより、低温・低圧下で効率的にアンモニアを合成できる新たな触媒の開発に成功し、福島県郡山市の産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所の敷地内に、本触媒を用いてアンモニアを合成する実証試験装置を建設し、実証試験(アンモニアの生産能力日量20kg)を行いました。また、その中で、水素エネルギーキャリアとしてのアンモニアの効率的かつ安定的な合成方法の確立に向けて、再生可能エネルギーによる水の電気分解で製造した水素を原料とするアンモニアの合成試験を実施しました。

その次の取組みとして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金事業」において、「大規模アルカリ水電解水素製造システムの開発およびグリーンケミカルプラントの実証」に旭化成と共同で採択され、事業を開始しました。その中で、当社は旭化成と共同で、変動する再生可能エネルギー由来水素を原料としたプロセスにおいて、水素供給量を制御し運転最適化を実現する統合制御システムを開発します。

開発された技術は、系統に接続できない余剰な再生可能エネルギーや、離隔地オフグリッドの再生可能エネルギーをアンモニアとしてエネルギー貯蔵し利用する方法への適用が期待されています。

展望

「水素基本戦略」でも述べられた、2020年代半ばに導入が期待されるクリーンアンモニアの供給を目指しています。天然ガスから原料の水素を製造、その過程で発生したCO2はEOR(Enhanced Oil Recovery:石油増進回収法)で利用したブルーアンモニアを海外で製造し、日本へ供給する検討も行っています。

2020年代後半には、再生可能エネルギー由来のグリーンアンモニア製造が本格化すると考えられており、変動する再生可能エネルギーからの効率的かつ安定的なアンモニア合成方法・技術の確立に向けて実証試験を実施予定です。

クリーンアンモニアサプライチェーン全体像