社外取締役メッセージ

リスクを価値に変える 社外取締役 遠藤 茂

中期経営計画「Building a Sustainable PlanetaryInfrastructure 2025」(BSP2025)の初年度であった2021年度は、コロナ禍が続き、ウクライナ侵攻等がありましたが、将来に向けて様々な種がまかれました。高熱伝導窒化ケイ素基板工場の本格生産の開始、廃食油を原料としたSAF製造サプライチェーンモデルの実証推進、米国ニュースケール社への出資、JGCアジアパシフィック社の設立等です。このうち、JGCアジアパシフィック社は“地産地消”という思想のもとで設立されましたが、エンジニアリング業界においてこの地産地消の比重は増していくと思います。これらの果実が今後摘み取られていくことを期待していますし、良い成果を出していくことがBSP2025達成に不可欠です。一方、豪州イクシスLNGプロジェクト関連で大きな損失を計上しました。遺憾ではありましたが、BSP2025を達成するためにも今後利益率を上げていく一層の努力が要請されることに加え、攻めのマーケティング力が問われてくることになります。ROEの低迷がここ数年続くなか、取締役会としても資本効率を上げていくための議論が重ねられています。

2022年4月に東京証券取引所の市場区分見直しに伴い、日揮ホールディングスは1部市場からプライム市場に移行しました。コーポレート・ガバナンス向上へ不断の努力が求められるなか、サステナビリティ経営の深化も図られました。子会社である日揮グローバルの社長に初めて外国人が起用されたほか、サステナビリティ委員会の設立、TCFDへの賛同、CDP評価への対応等の環境面のみならず、人権方針の策定等、取締役会での議論の深化が図られています。今後、国連等の国際社会が要請する諸原則へは一層の配慮が求められます。DXやジョブ型雇用、リスキリング等の課題へのさらなる検討については、当社グループにとって簡単な作業ではなく、とりわけこれまで長年にわたって培われてきた当社グループの企業文化とどのように整合させていくか、全社的議論が必要であると感じています。

私は、2021年の統合報告書において「今後、国際社会における地政学上の力学は、これまでとはかなり異なってくる。」と述べましたが、まさに2022年2月にロシアによるウクライナへの侵攻が起こりました。この侵攻がどのような形で落ち着くのかは不透明で、当社グループへの影響も注意深く見ていく必要があります。また、自然界から厳しい挑戦を受け、当社グループも大きな試練に遭遇するかもしれません。私は従来、危機対応の重要性を訴えてきましたが、今回は、あえて企業グループとしての“打たれ強さ”の重要性を指摘したいと思います。それは“七転び八起き”ということです。いかなる企業においてもリスクを最小にすることが求められており、当社グループも例外ではありません。当社グループの特徴はリスクをマネージする企業グループであることだと思います。これは、当社グループ流にいえば、“リスクの中心に自らを置く”という姿勢です。そしてその真骨頂は、リスクを価値に変えることです。困難な作業ではありますが、リスクをマネージして経済価値、そして社会・環境価値を創造し、究極的にPlanetary Healthの向上に貢献していくことが当社グループに求められていると思います。

BSP2025達成に向けて、着実な第一歩を踏み出すことができた 社外取締役 松島 正之

2021年度は、新型コロナウイルス感染症の感染再拡大に続きロシアのウクライナ侵攻があり、加えて環境問題の深刻化も重なり、厳しい経営環境でした。

結果として、当社グループの2021年度の受注目標は未達に終わりましたが、「艱難辛苦汝を玉にす」の喩えのとおり、総合エンジニアリング事業の体制強化や効率化、アジア太平洋におけるプロジェクト遂行拠点の設立、更に国内ではスタートアップ企業支援を目的とするコーポレートベンチャーキャピタルファンドの設立や培養肉の生産を目指す「株式会社オルガノイドファーム」の設立など、将来を見据えた投資を実施しました。

また、機能材製造事業では、企画、資金、人財等の面でグループ一体となって成長分野への投資を促進する仕組みが稼働し始めています。

このように環境変化に即応して、営業推進体制を柔軟に変革しており、持続的な成長を支える基盤が着実に整備されてきたと思います。

一方、コーポレート・ガバナンスの面では、中期経営計画「Building a Sustainable Planetary Infrastructure 2025」(BSP2025)を軸にそのモニタリング、ローリングをいかに回していくかが取締役会の最大のアジェンダとなっています。3つの重点戦略、「EPC事業のさらなる深化」「高機能材製造事業の拡大」「将来の成長エンジンの確立」については未だ道遠しですが、初年度は着実にその第一歩を踏み出すことができたのではないでしょうか。

また、取締役会は、決議だけでなく審議、報告があり、その番外編として勉強会も用意され、真摯で活発な意見交換が行われていると実感しています。取締役の構成も社外取締役が1名増員され半数を占めるに至っており、枢要な使命を全うしなければならないと肝に銘じています。

世界の2050年カーボンニュートラルに向けては、2050年までに当社グループのCO2排出量のネットゼロ化を目標に掲げています。事業面においては低・脱炭素化に向けてエネルギートランジションを図っていくことが不可欠ですが、同時に忘れてはならないのは私たちのオフィスが温室効果ガスの温床となっていることです。不用な書類や資料を思い切って断捨離すれば、オフィス空間は拡がり、生産性が上がるという副次的効果もあります。

日揮グループの将来は、グループ社員一人ひとりの肩にかかっています。その点を抱負として誇りに思っていただくと同時に、将来の日揮グループを各々でデザインしてみてください。

強みを活かして、着実に改革実現へ 社外取締役 八尾 紀子

長期経営ビジョン「2040年ビジョン」および中期経営計画「Building a Sustainable Planetary Infrastructure 2025」(BSP2025)が発表された2021年5月の翌月(6月)に、当社の社外取締役を拝命し、2022年で2年目となります。

2040年ビジョンにおいて1stフェーズ「挑戦の5年」に位置付けられたBSP2025の初年度にあたる2021年度は、サステナビリティ委員会の設立、廃食油を原料としたSAF製造サプライチェーンモデルの実証推進や高熱伝導窒化ケイ素基板工場の本格生産開始をはじめ、様々な新たな具体的施策、プロジェクトが実行に移され、BSP2025の達成に向けて進み始めました。

他方、従前から係属していた豪州イクシスLNGプロジェクトの紛争案件では、遺憾ながら、最終的に多額の特別損失計上を行う結果となりました。将来の経営へ与える不確実性を極力なくし、BSP2025の達成に向け前に進むためにも和解という形で解決に至ったものですが、今後、このようなことが起きないようにすることが強く求められます。この点、社内では改めて様々な観点から原因・対応策等の精査、分析を行い、論議を重ね、再発防止へ向けた取り組み、体制の強化が進められています。

当社グループを取り巻く事業環境に目を向けますと、新型コロナウイルス感染症の感染再拡大に続き、ウクライナ情勢等を背景とする資機材価格・輸送費の高騰、世界的潮流である低・脱炭素化の進展、エネルギー安全保障の問題をはじめ、急激な環境変化が続いています。先行きの見通しが難しいなか、そうした激変する環境変化によりビジネスが受け得る影響に係る適時の洞察力、対応力はこれまで以上に強く求められ、BSP2025の実効的なモニタリング、ローリングも一層その重要度を増していると感じています。

ビジネス領域・ビジネスモデルのトランスフォーメーションを支える組織のトランスフォーメーションにおいては、JGCアジアパシフィック社が設立され、アジア太平洋地域を対象としたリージョナル経営体制強化に大きな効果を発揮することを期待しています。同時に、同社を含む企業グループのホールディングス会社として、攻めと守りのバランスのとれたグループガバナンス経営についても引き続き注視していきたいと思っています。

新たな挑戦にあたっては、当社グループでは直面したことのない多様なリスクも伴います。リスクのないビジネスはもとより存在しませんが、リスクを低減することはできます。急激な環境変化のなかにあって、スピード感を持った意思決定、経営判断が求められる一方、「攻め」の経営を進めるにあたっては同時に、適切なリスクテイクを支える「守り」の体制、ガバナンス体制を含むコーポレート・ガバナンスの継続的強化も必要不可欠です。

厳しい経営環境ですが、この環境下だからこそ産業・社会の基盤を支える存在として、当社グループの強みである、「先読み力」「技術力」「リスク対応力」「マネジメント力」をグループの総力を挙げて発揮し、果敢に新たな挑戦を行い、社会課題の解決、そして当社グループとしての成長、拡大が実現されることを期待しています。