社外取締役メッセージ

社会課題の解決に貢献する価値創造を 社外取締役 遠藤 茂

国際政治の現状が厳しさを増すなか、コロナ禍によるグローバルなサプライチェーンの分断や人の移動の制限が世界経済に甚大な影響をもたらしています。コロナ禍は歴史のプロセスを早送りするといわれています。これは日揮グループにとって業績面でマイナス要因にもなり得ますが、企業としてのレジリエンスを高め、改革を促進する絶好の機会として活かすこともできると考えています。

2019年秋、当社グループは持株会社体制へと舵を切りました。これは創業初期の1930年代の石油精製事業からエンジニアリング事業への転換、次いで1960年代の海外事業への展開、そして、今回の持株会社体制への再編と創業以来3度目の大変革です。現在グループ全体で変革の実装に取り組んでおり、そのなかで注目すべきは2040年ビジョンの策定です。SDGs、ESGを念頭に、社会の抱える課題解決に真摯に取り組み、環境を守るという当社グループの強い決意が滲み出ており、2021年に発表予定の次期中期経営計画のなかで具体化された構想が示されることになると思います。

ここで、私は改めて企業価値とは何かを考えてみる必要があると思っています。企業である以上、当然利益を出さねばなりません。しかし、今やそれだけでは不十分であり、投資家は勿論のこと、社員、その家族、地域、環境を含めた社会全体のために有益な価値を創造していくことが求められています。先般、スーパーコンピュータ「富岳」が計算速度などを競う世界ランキングで4冠に輝きました。私はその発表会において開発者の「初めから世界一を目指していたというより、使いやすさを追求した」との言葉を耳にし、機能の追求だけではなくユーザーの立場を意識し、社会への価値提供を重視した開発姿勢に心を打たれました。歴史を紐解くとパナソニックの創業者、松下幸之助氏も、創業当初一旦は事業で成功したものの、その後手痛い失敗を味わいました。「自分は金儲けだけを考えていた。創業の志がなかった」と猛省し、「人生に幸福をもたらし、この世に楽土を建設すること」を企業使命に定めたといわれています。

当社グループは、変革の基盤であるコーポレートガバナンスの向上にも努めています。最近でも指名委員会・報酬委員会を立ち上げ、譲渡制限付株式報酬制度を導入し、社外取締役を全取締役の3分の1以上とするなど着実に成果が上がっています。今後は記述情報の開示などについても議論を深めていきたいと考えています。

当社グループには社会的価値に対して強い思いを有する社員が多く在籍しています。勇んで仕事に向かい、智の限りを尽くし、一筋に間断なく打ち込む。このDNAこそが当社グループの最大のコアコンピタンスであると思います。デジタルトランスフォーメーションへの対応など課題も多く存在しますが、今後ともグループ一丸となって果敢に挑戦し続けていくことを期待しています。

危機を「好機」と捉え、将来を掌中に 社外取締役 松島 正之

今、日揮グループは試練の時にあります。今年に入りCOVID-19の感染拡大による影響も加わって、オイルメジャーや産油・産ガス国の投資が急速に動意薄になっています。また長期的には世界的に「脱炭素」という大きな潮流がエネルギー構造を変えつつあり、オイル&ガス分野の受注に向かい風が吹くのは避けられないのではないでしょうか。

しかし、もとよりオイル&ガス分野の設備投資の需要がいつまでも落ち続ける訳はなく、過度に悲観的になる必要はありませんが、当社グループにとってオイル&ガス一本足打法を続けていくことがリスクであることは間違いないと思います。

こうした認識に立って、当社グループでは今後とも持続的成長を維持するために、従来の経営戦略や営業体制を抜本的に見直す改革を行っています。2019年10月から持株会社体制に移行したのもその一環です。更に2020年に入ってからは、各部門や有識者の意見を踏まえ、20年後を見据えて有望と考えられる新規事業をマッピングし、今後これを様々な基準に照らしてその優先順位を決め、できるだけ早期に具体化する予定になっています。更に、21世紀の厳しい世界を生き抜くために、生産性が高く、柔軟にして強靭、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)を実装した企業グループへの転換を企図しています。

企業は沿革や伝統を尊重しつつも、環境変化に即応して体制内改革を行っていかなければ衰退する、というのが持論の私としては、改革に伴う未知のリスクに逡巡することなく、スピード感を持って新しい体制への移行を進めるよう奨励しています。また、この機会に国際的で多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍できる制度づくりの更なる推進を提唱しました。そして、こういう局面であるからこそ、20年後の当社グループはいかにあるべきか、自らは何をすべきか、一人ひとりが模索し、互いに熱く語り合うことを望みたいと思います。

ただ、改革が抜本的で、かつ矢継ぎ早であるだけに、それぞれの職場で軋轢や改革疲れが生じないように、きめ細かくモニタリングしていく必要があると思います。一方、ガバナンスについては、ここ数年取締役会の構成・運営の適正化や、指名委員会・報酬委員会において社外取締役が過半数を占める構成とすることで、公正性、透明性を高めるなど、体制の整備が進んでいるので、組織改革によってガバナンスが揺らぐ懸念はありません。

危機は『好機』といわれます。危機感を共有すれば全員の気合がそろいます。試練を切り抜ける道は決して平坦ではありませんが、心を1つに、社員同士が互いに切磋琢磨していけば、必ずや『将来』を掌中に収められるものと確信しています。

エンジニアリングビジネスにおけるリスクとリターン 社外取締役 植田 和男

2019年6月に日揮ホールディングス(株)の社外取締役に就任してから一年が経ちました。この間、取締役会などの場で専門の金融の観点から様々な質問や提言を行ってきました。当たり前のことですが、私の関心のポイントは株主が要求するリスクに見合うリターンを会社が稼いでいるかどうかということです。

リスクとリターンはプロジェクトによって大きく異なります。日揮グループが抱えているプロジェクト毎にリスクの性質、予想されるリターン、リスク管理の手法などに関する議論を行い、様々な提言を行いました。

当社グループは2016年から開始した現中期経営計画において、ROE(株主資本利益率)の目標を10%に置いています。現在、世界的に安全資産のリターンは0%に近いところにありますが、一般的に株式投資に対し要求されるリスク・プレミアムは3~6%程度といわれており、また、以前は安全資産収益率の水準が今よりも高かったことを考えると、適切な水準と考えています。

しかし、財務レバレッジが高い、即ち自己資本比率が低ければ、株主からの要求リターンは上がりますし、事業リスクが高くなればやはり要求されるリターンは上昇します。教科書的に言えば、財務・事業リスクの程度や性質に応じて、プロジェクト毎に要求されるリターンを計算し、期待リターンがそれを上回ればそれを採用することになりますが、現実のビジネスはそう簡単ではありません。

例えば、アフリカにおけるプロジェクトのリターンの統計的分布を想定し、それに基づいてリスク、更に資本コストを計算することは現実的には不可能です。しかし、そういった作業を試みることで見えてくることは実は多くあり、想定外の事象を減らし計算できる範囲のなかにリスクを収めようとすることは、リスク管理を構成する重要な要素です。こうした議論に積極的に参加しつつ、意思決定の質の向上に貢献していきたいと考えます。

現実に当社グループの稼いでいるROEは2020年3月期が1%、過去3年の平均でも4%弱と目標には遠い水準となっています。数年程度の短期間での収益率が低いことについては、あまり気にするべきではないでしょう。しかし、長期にわたってそうした状況が続くとすれば問題です。

今後のリターンを左右する経済環境としては、コロナショックなどの短期的な要因だけでなく、中長期的影響、そして環境保全の動きがエネルギー業界に与える影響が大きいと思われます。まさに、当社グループ自身もこうした変化を睨んで2040年ビジョンの策定を進めています。まず遠い将来の姿を定め、そこから逆算して近い将来の計画を立てるというアプローチは、企業が長く存続し続けるためには必要不可欠な作業です。

遠い将来のこととなると、合理的な経済計算をすることがますます困難になります。しかし、長年の経験によって培われた、他社にはない知恵や技術を冷静に見直し、外的環境と照らし合わせることで進むべき道は必ず見つかるはずです。日本企業には相対的に少ないグローバルな次元で活躍できるという競争力も長期ビジョンの1つの柱になると思います。今後もこうした議論に対して更なる貢献ができればと願っています。